2016年4月1日金曜日

銀行類似の機能を果たす

今回の米国金融危機の場合には、一つには、この銀行取り付けにきわめて類似した事態が起こって、システムミックーリスクが顕在化することになったと考えられる。証券化商品に投資をしていたヘッジファンドや投資専門会社は、資金調達において外部負債に依存する度合(レバレッジ)が著しく高くなっていたと同時に、それらの負債の満期限は(運用対象に比べて)ごく短期のものであった。要するに、それらの財務構造は、「短期で借りて長期で貸す」という銀行類似のものであった。こうした状態において、不安に駆られた資金提供者が一斉に解約を求めたり、借り換えに応じなくなった結果として。システム危機に至ったといえる。

もっとも、こうした事態は、右で述べたようなブルーテンス政策を適切に実施していれば防止可能なはずのものである。換言すると、今回米国で金融危機が発生した理由の一つは、米国における金融規制監督の体制が不十分で整合性を欠いたものであったことにあるといえる。すなわち、伝統的な銀行部門に対しては、既述のようなブルーテンス政策が実施されていたが、伝統的な銀行部門の外側で発達し、銀行類似の機能を果たすようになっていた部分に対しては、ほとんど規制監督が及んでいなかった。

こうした規制監督の範囲外にあった部分は、現在では「影の銀行システム(Shadow Banking System)」と呼ばれるようになっている。影の銀行システムが発達していることは、全く気づかれていなかったわけではなく、それに対する規制監督を強化すべきだという指摘も行われていた。にもかかわらず、規制監督がほとんど加えられてこなかった。

例えば、A・ブラインダー教授の指摘によれば、一九九四年に米商品先物取引委員会(CFTC)がOTCデリバティブに対する規制を提案していたけれども、米財務省、FRB、米証券取引委員会(SEC)が反対し、実現しなかった。また、二〇〇四年には、SECが大手投資銀行に対する自己資本比率規制を緩和し、高レバレッジを許容した。さらに○四~○七年の頃には、サブプライムーローンが急増するとともに、融資基準は劣悪なものとなり、不透明な取引も横行していたことが明白だったのに、それらをどの規制監督当局も止めようとしなかった。

このように規制監督上の無作為が放置されてきたという点において、ブッシュ政権(一部は、その前のクリントン政権)の政策対応に問題があったといわざるを得ない。この意味で、今回の米国における金融危機の発生は、政府の政策対応の失敗によるものだという面が少なくない。こうした「政府の失敗」が生じた背景には、ブッシュ政権の自由放任主義的なイデオロギーに加えて、投資銀行関係者等がロビー活動その他を通じて強い影響力を行使してきたという政治経済学的な要因があるとみられる。

2016年3月1日火曜日

第七章は安保理の専権

しかし、冷戦下で安保理が麻原状態に陥ったため、総会は常に、この制約を乗り越えて権限を拡張しようと努力してきた。一九五〇年十一月に採択された有名な「平和のための結集決議」は、安保理常任理事国の一致が得られない場合は、総会に問題を付託し、総会が開かれていない場合は理事国七力国(現在は九力国)の賛成による要請か、加盟国の過半数の要請で、緊急特別会期を開くことができる、と定めた。

この決議自体は、朝鮮戦争に関連し、旧ソ連との対立で機能麻庫に陥った安保理を迂回する目的で米国が中心となっ
て成立させたものだが、その後、総会権限を強化する先例になった。

この緊急特別会期はスエズ紛争やハンガリー動乱、中東問題、コンゴ事件などに際して何度も開かれており、安保理か機能しない中で、国連の信用度をかろうじて支えてきたシステムだ、と言えるだろう。その後も総会は、安保理とほぽ並行して審議をし、国際社会の声によって安保理を牽制したり、圧力をかけるなどの役割を果たしている。

だが、ここで忘れてならないのは、その前提に立った上でなお、第七章による強制措置については、安保理の専権事項とされていることだろう。加盟国に法的な拘束力を課すという強力な権限は、あくまで安保理にのみ委ねられている。総会は、監視や監督、調査といった事項については権限を持ち、さらに国際社会の声によって政治的、道義的な圧力をかけられるが、その最終的な実行を保証する力は持っていない。

冷戦後に安保理が結束し、第七章に基づく強制措置を発動する機会が増えるにつれ、総会の権限が相対的に薄れてきたのは偶然ではない。後で見るように、国連の中で、近年安保理の機構改革が焦点になるに至った背景には、大国主導の国連運営に対する加盟国の危機感が横たわっているとも言える。

2016年2月1日月曜日

小口取引を扱うシステム

EMU外の諸国もユーロ支払いができるように、TARGETにリンクすることが許されている。TARGETは、これまでのヨーロッパの電気通信システムを大きく変えた。これまでのシステムと新しいシステムの比較を、フランスのケースを例として説明してみよう。図は、これまでの支払いシステムの構造である。取引銀行からの流れは、国内線と国際線に大別される。国内線は、小口取引(五〇〇〇フラン以下)と大口取引(五〇〇〇フラン以上)に分かれる。

小口取引を扱うシステムは銀行間テレコム通信システムSITであり、大口取引を扱うシステムは二つあるが、ひとつはすべての銀行に開かれたテレコンベンセイション・システムTBF、もう一つは有力銀行がリスク防止を分担するネットープロテジエーシステムSNPである。この国内線の三つはすべて支払い銀行に集中され、取引相手に支払われる。国際線は国際電気通信支払いシステムSWIFTによる銀行間ネットワークを通して、相手側に支払われる。これまでの実績を見るかぎり、SWIFTにはエラーが多く、コストも高くついた。

同じページの下の図は、未来のユーローシステムを示したものである。複雑な構成に見えるが、図の在来システムをベースにして比較すれば理解は容易である。つまり、在来システムに新しくつけ加わったのは、ECSとTARGETである。ECSはユーロ精算システムのことで、これまでのECU精算のための銀行間システムを母体にするものである。さしあたって、ECSの運用はSWIFTが管理するが、ユーロ登場後はECU精算がユーロ精算に替わることになる。最も重要な回線は、TBFITARGET線で、これがユーローシステムの大動脈になるのである。フランスの例で例解したが、TBFの代わりに各国の大目取引回線が位置すると考えればよい。

なお、TARGETへの域外回線のリンクについて、ちょっとした論争が生じた。域外からの「一日預金」を認めるかどうかという問題である。もし、域外の銀行が「一日預金」をするとすれば、ユーローゾーンのマネーサプライに影響し、金融政策にも影響を与えるだろう。それゆえに、そのようなアクセスは許されなかったのである。