2012年7月19日木曜日

「そこにいる」ことが根本

橋本さんは、とてもいい指摘をされています。「人は悲しみや苦しみのどん底にあっても、ほんとうにそれと向きあうことができるならば、必ず立ちあがることができると、私は信じています。そのとき、私たちは引きあげようとしたり、押しあげようとしたりせず、でも、そこから逃げることなく『そこにいる』ことが大切なのでは・・・と思っていますが、いかがでしょうか」

まさに、私たちがやっている心理療法の根本は、「そこにいる」ということで、それ以外のなにものでもないと言ってもいいくらいです。

橋本さんご自身、赤ちゃんのことを心配されているお母さんにどんな言葉をかけていいかわからず、最初は一緒にいさせていただくというところからはじめられたとおっしゃっておられましたが、じつは心理療法にとって、そこがもっとも大事なところだったわけです。

ただ、言葉でわかっていても、あるいは、体は一緒にいても、心が逃げてしまっている場合が多く、私自身、このごろは、体も心もそこにいるということばかりを訓練しているのではないかという気が自分でもします。なかなかそれができず、やはりまだ修行が足りないと自省の念に駆られます。

それというのも、ほんとうに深い苦しみ、悲しみを抱えている人と、心も体も一緒にいるということは、こちらにとっても苦しいことだからです。

しかし、逆にクライエントの側からしたら、ほんとうにつらいとき、悲しいときには、よけいな慰めなど言ってもらう必要はなく、一緒にいてもらうだけでいい。

ところが、治療者のほうがじっとしていられなくなって、ついよけいな慰めの言葉をかけたりしてしまうのです。これは、一種のごまかしにすぎません。