2015年6月1日月曜日

中国軍事力の近代化

軍事力の近代化にともなって、中国の軍事戦略は大きく変わった。侵攻してくる敵を人民の海の中に誘い込み、包囲・殲滅する遊撃戦主体の毛沢東の「人民戦争戦略」は郵小平時代に放棄され、その代わりに国境付近で外敵の侵略を撃退する局地戦争(限定戦争)に対応した「積極的防禦戦略」が導入された。改革・開放の結果、沿岸部に発展した諸都市の防衛が中国軍にとって急務となったからである。この新戦略の主役となるのは、「合成集団軍」である。

外敵の近代的な機甲師団を撃破するため、兵力、機動力、火力の面で敵を圧倒する装備を持った軍隊の編成だ。歩兵中心のマンパワーに頼ってきた従来の中国軍とはまったく異なる、近代的装備の軍隊のエースこそ、合成集団軍なのである。「精簡整編」をスローガンに進められた軍制改革の結果、中国軍の兵員総数は八〇年代の四百二十万人から、現在は三百万人体制ヘー段とスリム化した。中国軍は常時臨戦態勢の軍隊から、有事に即応性の高い、機動力のある近代的な軍隊へと変貌をとげたのである。中国軍が以前に比べてより進攻型の性格を強く感じさせるのは、このためだ。陸上戦略の転換によって、海洋戦略もまた画期的な改変を見た。

沿海部の都市や軍事施設の警備を中心とする従来の沿岸防衛から、現在は領海の防衛を中心とする近海防衛に重点が移ったのだ。そのための中国海軍近代化の象徴として、航空母艦の保有・建造問題が浮上している。中国外交当局は外国との空母の共同建造や外国からの購入を明確に否定しているが、中国中央軍事委員会が空母二隻を十ヵ年計画で建造する決定をしたとの報道もある。このような海上戦略の転換によって、海洋権益の確保や海上輸送ルートの安全保障を図るためにも、将来、空母保有の必要性が高まることも予想されるのだが、近隣諸国が懸念すべきことは、それよりもむしろ、「シーレーンの航行妨害や台湾の海上封鎖などに威力を発揮するロシア製のキロ級潜水艦の購入や、旧ロメオ級を改良した宋級潜水艦の建造など、潜水艦の戦力増強の動きであろう」(阿部純一「海洋をめざす中国の軍事戦略」『国際問題』九六年十月号)と専門家は見ている。