2015年1月5日月曜日

電力自由化からスマートグリッドヘ

そのような前史があったところに、一九九〇年代の「モバイル革命」と「インターネット革命」が起きた。水平分業の各レイヤーで、多くの新規プレーヤーが参加して、一大競争が始まった。携帯電話会社同士の競争が始まり、インターネットのプロバイダ(接続業者)同士の闘いが行われ、インターネット上で各種のサービスを提供するアプリケーションサービスプロバイダ同士も競い合った。多くの分野でさまざまなイノベーションが一気に開花したのが、一九九〇年代以降の話だ。エネルギー産業も通信産業とよく似たところがあって、一九九〇年代半ば以降、米国やヨーロッパで電力の自由化が進展したことは前にも述べた。これはいわゆる「発送電の分離」で、それまでの垂直統合の一社独占構造が崩れ、水平分業化が進展した。発電と送電網の分離は川上側の変化だから、通信で言う長距離とローカルの分離に近い。

この段階では、ユーザーにもわかるような変化が起きたわけではない。これも通信と同じだ。電力の自由化で電気料金が若干安くなった程度の話にすぎなかった。ただ、ここで水平分業化を進めておいたことが、その後のイノベーション爆発の呼び水となっていく可能性が高いのである。電力市場のイノベーションの本番はこれからだ。電力の世界でインターネット革命に相当するのは、「スマートグリッド(次世代送電網)」「省エネ低炭素型の分散型電力利用・発蓄電技術」のイノベーションだ。エンドユーザーに近い川下側の革命がこれから起きる可能性が高まっているのである。通信ネットワークで電力の供給側とエンドユーザー側、あるいは供給者問、ユーザー間を結び、IT技術と価格メカニズムも活用しながら電力需給の最適かつ絶妙なバランスを実現する。

再生可能子不ルギーを有効に使ううえでも欠かせない技術だ。そしてピークカットによって大型発電所への依存度も下げていく。このスマートグリッド周辺で、いままさに、さまざまなイノベーションが起こり始めているのだ。残念ながら、日本はいまだに発送電分離を認めておらず、地域独占の垂直統合型を維持している。欧米の動きと比べると、周回遅れと言ってもいいくらいのレベルなのだが、東日本大震災と福島第一原発事故を機に、パンドラの箱が開きかかっている。これを思い切り開放すれば、一気に遅れを挽回できる。そして通信でそうであったように、このイノベーションは、電力周りのビジネスを一気にグローバル化させる。省エネと人口減少で売り上げ低下圧力に悩む電力会社自身にとっても、また周辺の機器メーカーやITサービスにとっても千載一遇のチャンスなのだ。

にだが、いまのところ各電力会社の動きは鈍い。「スマートグリッドというけれど、それはいまだに各地で停電が頻発する米国だから必要なのであって、電力の安定供給が実現できている日本は現状でも十分『スマート』だ」というのが彼らの言い分だ。たしかに、分散的に発電して、分散的に電力を使うスマートグリッドの仕組みには、現状でさまざまな問題点があることは私も知っている。だが、そうした技術的な問題は、時間がたてば克服できるのだ。それはインターネットの歴史が証明している。

インターネットが登場したばかりの頃、NTTなどの「伝統的な」通信事業者の技術者の多くは、「インターネットなんて、接続を保証しないベストエフォート型のサービスだろう。安定供給が第一の我々が直接やるような仕事ではない」と言っていた。交換機を頂点とした中央集権型の垂直統合モデルに慣れた彼らにとって、中心を持だないネットワーク型のサービスはどこか信用できなかったのだろう。たしかに最初の頃は、インターネット回線はよく帽斡を起こしていて、つながらないこともあった。だが、中央集権システムにも弱点がある。中央が落ちたら全滅なのだ。しかしインターネットなら、回線のどこかがダウンしてもそこを迂回していけるので、いきなり全滅することはない。