2014年5月22日木曜日

因果法則を満足させる三つの条件

われわれはこうして「因果法則」に関する、重要な二つの原則を明らかにすることができた。その第一は独立変数と従属変数との間には、時間的な順序があるという原則である。酒を飲んで酔が回るという現象があるとき、誰もまず酔が回ったから、酒を飲んだと考える者はいないであろう。言いかえれば独立変数における変化がまず生じて、次に従属変数における変化がおこるのである。スイッチを入れたからモーターが回るのであって、モーターが回ったからスイッチが入ったと、考える者はいまい。

次に因果法則における第二の条件は独立変数の値が変化すれば、従属変数の値も変るというように、二つの変数が共変(covariance)の関係にあるということである。ホテルの部屋に入ってスイッチをひねっても、目的の電燈がつかなければ、誰でもまず誤ったスイッチをひねったと思うであろう。そして他のスイッチを探して、目的の電燈がつくまで、次々にスイッチをひねってみるであろう。それは簡単な、「共変」の実験を試みているのである。このように変数の変化における時間的順序と、変数の共変とは、因果関係の存在を確かめるための、二つの基本的な条件なのである。

しかしながら因果関係の存在を確かめるためにはもう一つ、欠かすことのできない条件がある。それは今問題になっている独立変数を除いた、他の全ての変数に、重大な変化がないという条件である。これをローソクの焔の実験に戻って考えれば、次のように言うことができる。つまりフラスコの有無が、まさにローソクの焔の存在を決定する唯一の原因であることを証明するには、焔の存在に影響を与える、他の条件に変化のないことが、証明されなければならない。

このような条件を考慮に入れて、書き直したものである。この図に示したように、もしフラスコ以外の条件、たとえば室の気圧とか、温度とか、外気の成分に急激な変化が生じると、焔の存在に影響があるとする。もしそういう可能性が考えられるならば、実験者は、フラスコ以外の条件には変化がおこらないように、何か工大をしなければならない。そうしないと焔が消えたとき、その原因がフラスコでローソクを覆ったためなのか、それとも他の条件が急激に変化したためなのか、確定できないことになる。

つまり実験者は従属変数に影響を与える可能性を持つ、他の変数の値が変化しないよう、人工的にこれらの変数を統制(SほI)してやらなければならない。あるいは他の条件が変化しないという、仮定(assuヨーon)をおかなければならない。このように人工的に変化しないように統制された変数、あるいは変化しないと仮定された変数は、パラメター(parameter)と呼ばれている。そこでこのパラメターを含めて重要な点を繰り返せば、因果法則を確定するためには次の三つの条件が、満足されなければならないことになる。

まず独立変数の変化が、従属変数の変化に先行するという、時間的順序が確立されなければ息らない。次に両変数間の共変関係を確かめなければならない。そして最後に他の重要な変数が、変化しないという条件を確立しなければならない。実例としてあげたローソクの焔のような、自然科学の分野における単純な実験では、この三つの条件を満足させることは比較的容易であろう。しかし人間社会の研究において、このような三つの条件を、果たして満足させることができるであろうか。正直なところこれは大変に困難な仕事である。そして人間社会の科学的研究とはなによりも、この困難な問題に立ち向う勇敢な試みに他ならないということができる。

2014年5月2日金曜日

プライバティゼーション

Privatizationとは公営企業の民有化のことをいうのであるが、政府と民間企業とが伝統的に癒着した国柄に多く、かつ後進資本主義的発展国に特有の現象である。

西独は第二次大戦前からの国家社会主義的色彩に対する社会的反動もあり、共産主義への反感から、さらに歴史的にも地方分権的伝統からも運輸・通信等を除き国有化の進展は戦後の苦難期からもあまりみられなかった。一方、英国・フランス・日本は、国家所有に対し戦後の社会主義的影響もあって比較的寛容であった。

日英仏三国とも共通するのは、国家財政が実質上破綻に直面し、戦後四〇年が経過して産業構造の大転換か要請され、かつ官僚統制が比類なく強固に君臨しているという点である。

国有企業の特質としての非効率・低収益性・巨大な国家独占という性格は、実はそれがゆえに当初から国有化されてきたともいえる卵と鶏の関係であるともいえるが(個人や私的団体では手にあまる巨大事業、国益上必要な事業、私的独占に委ねられない全国的事業、国家的要請上必要だが収益上の危険あるもの等)、外国の例をみるまでもなく日本の国鉄やNTTという両極端の実例が示している現実である。現在、前述の日英仏では国有企業の株式公開が盛んで、その公開結果が三国の株式市況に与えている影響も大きいものがある。