2012年6月20日水曜日

フロイトやユングがつくったこと

心理療法を広義に解釈すれば、なにも外から見える枠はなくてもいい。運動場の片隅で会おうが、一緒に山登りしようが、やろうと思えばどこででもできます。病院の保育器の中がのぞけるようになっている廊下のところでもできます。しかし、そのときに心理療法家が心の中に枠をもたずにやっていると、すごく危険です。クライエントによっては、いつまでも座りこんだり、泊りこんだりということも起こってきます。

時間、場所、料金といった枠組みは、フロイトやユングらの試行錯誤の中から生まれてきたものですが、私たちがやりはじめたころにはその意義がなかなか理解されなくて、若い人たちからよく批判されたものです。

「ぽくなんか、困った子とずっと一緒に住んで、寝食をともにして診ているのに、先生なんか、一週間に一度会うだけで、ずいぶん楽でしょう」そんな皮肉まじりの批判を受けたこともありますが、しかし、実際には私たちのやり方のほうがずっと効果があがりますから、結局は彼らもしだいに納得するようになります。

「こんな狭い汚い部屋で一時間会うくらいなら、集団で外で遊ぶほうがよほどいいではないか」と言う人もいました。それはたしかに健康にはいいかもしれませんが、私たちは健康教室をやっているわけではありません。時間、場所、料金という枠組みについては、すごく批判されました。だから、私はその意義をわかってもらうためにわざわざ「時間、場所、料金について」という論文を書いたほどです。

もっとも、私自身、ユング研究所から帰ってきたばかりのころは、そんなにきっちりと決めてやっていたわけではありません。まだ心理療法自体が一般に知られていないころで、なにかうさんくさいものと思われていた時代ですし、また、誰もが「相談はただ」と思っていますから、そんなときにお金など取ったら誰も来てはくれません。

だから、はじめは無料でやったこともありますし、そのほかにもいろいろな方法を試しました。そういう中で、少しずつみんなを説得して、そうした枠組みを実施していったわけです。

京都大学で料金を取るということを決めたときでも、学生の中にはすごい抵抗がありました。人の苦しみを金儲けの道具にするなんてもってのほかだとか、お金を取ったら人助けにならないとか、いろいろ言われました。しかし、もともとフロイトやユングが体験の中から編みだした手法ですから、誰でも実際に体験を積んでいくうちに、自然にわかってきます。